近年増殖因子刺激は時空間的に制御され、細胞はそれを認識して応答していることが示されつつある。増殖因子によるシグナル誘起は単なるレセプター・リガンドのような単純な分子相互作用だけでは説明できない現象が多く報告されている。例えば、上皮増殖因子レセプター(EGF-R)の応答性は細胞間相互作用の強度に依存して応答性が変化するなど、増殖因子によるシグナル伝達機構は細胞間接着のE-カドヘリンの局在性によって膜状にて高度に制御されていることが示されつつある。加えて、生体内環境では特定の組織にある細胞が全て同等にサイトカイン等の液性因子による刺激を受ける場合は少なく、刺激を受けた細胞が次々にその情報を伝搬していることが示唆される。そこで、本研究ではサイトカイン・増殖因子などの液性因子の局所的な刺激に対して細胞の動的挙動の解析を行い細胞による液性因子の時空間情報認識メカニズの解明するための足がかりを得ることを目標とし、化学的に基質に固定化可能な上皮増殖因子(EGF)及びE-カドヘリンを作成し、それに粒径1~3μmのポリスチレン粒子に固定化することで、それら粒子が細胞にどのように認識されるのか検討した。その結果、E-カドヘリンを固定化した粒子は細胞コロニーの周辺部位にのみに作用し、コロニー全体の集団運動を抑制する作用があることが確認された。さらに、周辺部位からコロニー内部の細胞へMAP kinase ERK1/2の脱リン酸化が伝搬していく様子が確認された。他方で、細胞集団の一部の細胞に機械的な刺激を与えるとERK1/2のリン酸化は刺激を受けていない細胞へと伝搬することも確認された。このことから、コロニーを形成する細胞はE-カドヘリンを介して力のバランスが保たれており、そのバランスの変化がE-カドヘリンを介して細胞間情報伝達を促していることが示唆された。
|