研究概要 |
本研究では、次世代に情報を伝える配偶子(特に精子)が作られる過程で、その品質が維持される機構を明らかにすることを最終目的としている。22年度は、この問いに対して重要な示唆を与える発見を行なった(Klein et al.,Cell Stem Cell 2010)。すなわち、精巣内でパルス標識された精子幹細胞とその子孫を長期間にわって追跡した結果、幹細胞は次々と消える一方で、周辺の幹細胞から生まれた新たな幹細胞によって入れ替わっていることが明らかとなった。さらに、この入れ替りが確率論的(ストカスティック)に起こること、入れ替りの頻度は1-2週間程度と予想外に高いことが、数学的に示された。これは、「幹細胞は厳密な非対称分裂を繰り返して長期間にわたって維持される」という古典的な幹細胞観を否定する。配偶子の品質管理の視点からみると、将来にわたって多くの配偶子を産み出す幹細胞と、短期間で消滅する幹細胞の違いがどのような機構によるのかという、重要な問いを投げかける。
|