核ゲノムにコードされる遺伝子には一般にイントロンが含まれるため、そのcDNA全長塩基配列を複数の動物種から迅速に並列解読して分子系統解析を行うことは従来容易でなかった。本研究では、その目的のために次世代シーケンサーを用いたアプローチを試みた。平成23年度は、新たに3種の有鱗類の肝臓からmRNAを調製し、細断した後ランダムプライマーからの逆転写を行い、Roche GS FLX型次世代シーケンサーによってcDNA断片塩基配列を網羅的に決定した。これらをアセンブルさせBLAST解析を行うことで、個々の遺伝子の帰属を行った。その結果、それぞれの種から100以上のほぼ完全長のcDNA塩基配列を迅速かつ正確に決定できた。前年度に取得したシマヘビの高発現遺伝子のcDNA塩基配列をqueryにして、他の3種のデータに対してBLAST検索を行うことで、4種間の高発現遺伝子の共通性を調べた。また、グリーンアノール(イグアナ下目)を含む脊椎動物のモデル生物において、当該遺伝子のホモログをEnsembAデータベースを用いて検索し、パラログの出現によって誤った系統関係を導くことが懸念される遺伝子を除外した。以上の検討の結果、シマヘビにおいて発現量の多い100遺伝子のうちで11遺伝子を有鱗類の系統解析に適した遺伝子として選抜した。これらの中にはAPOB遺伝子のように極めて長い鎖長を持つものも含まれていた。これらの遺伝子を結合したデータセットを用いてベイズ系統解析を行ったところ、ヘビ類がイグアナ下目+アンギストカゲ下目と姉妹群を形成するという系統関係が高い事後確率を伴って支持された。今後、更に詳細な統計検定を行って、ヘビ類の系統的位置づけを確定させるとともに、本研究の手法を爬虫類の別の系統的問題に応用することで、核遺伝子を用いた有用な系統推定の手法として確立していきたい。
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