研究概要 |
自然由来のにおいに対する生理的・心理的反応に対する遺伝と環境の影響を明らかにするために,乳児を対象として生理的な実験を実施した。 におい刺激はα-ピネン(100μl),ならびに人工香料(乳児用製品添加香料;10μl)をろ紙に含浸させ,被験者の鼻先にて空気を送ることによって呈示した。測定指標は,右前頭前野における脳血流量(近赤外外分光分析法),心電図(心拍数,心拍変動性解析によるLF・HF成分),唾液アミラーゼとした。なお実験計画については森林総合研究所倫理審査委員会の審査ならびに承認を受け,被験者の保護者より実験参加に関する同意書を得た。被験者は月齢2ヶ月前後の男女乳児とし,実験は室温25℃,湿度55%の室内にて実施した。被験者にセンサーを貼付した後に3分間の安静時間を取り,その後アミラーゼ分析用の唾液採取を行った。続いて3分間においを呈示した後に再度唾液を採取し,最後に安静を3分間取った後に唾液採取を行った。この間脳血流量と心電図を連続的に測定した。 結果として,どちらのにおいてもにおい呈示開始後に脳活動の上昇が認められたが,人工香料の方がより大きく上昇する傾向にあった。またどちらのにおいてもにおい呈示後の安静時には脳血流がベースラインに戻る傾向にあり,本実験システムにより2ヶ月の赤ちゃんでもにおいによる脳活動の変化をとらえられる可能性が示唆された。またα-ピネンのにおい呈示時に心拍数が低下し,人工香料では心拍数低下が認められない可能性が示唆され,自然由来のにおいが乳児においても自律神経系に鎮静的に作用する傾向があると考えられた。しかし測定データについては被験者間の個人差が大きいこと,泣いてしまうなど安定して測定することが難しいことなどから今後も慎重にデータの蓄積ならびに解析を続ける予定である。
|