過酸化水素は、作物のストレス作用物質あるいはシグナル伝達物質として重要である。したがって、組織、細胞内における過酸化水素発生部位を検出する方法を開発することは、ストレス生理学および作物生理学において重要である。本研究は、CeCl3法およびDAB法を改良して電顕レベルで過酸化水素を検出する組織化学手法を確立することを目的とする。塩ストレス処理をおこなったイネの葉についてCeCl3法とDAB法で過酸化水素の分布を調べたところ、いずれも葉緑体チラコイドの周囲に反応産物が検出された。またミトコンドリア、ペルオキシソーム、細胞膜にも過酸化水素が検出された。 いずれの部位においても暗条件下では過酸化水素は検出されず、過酸化水素の発生には明条件下の葉緑体における過剰な還元力の生成が関与していることが推察された。従来CeCl3は組織内への浸透が困難とされ、表皮における過酸化水素の分布観察に用いられていたが、本研究において真空浸潤でCeCl3を浸透することによりオルガネラ内の過酸化水素を検出できた。またDAB法は過酸化水素との反応産物生成のためにはペルオキシダーゼの活性が必要であり、従来は外部から過酸化水素を与えて、細胞内のペルオキシダーゼ活性の分布観察に用いられてきた。しかし本研究において、イネの葉では塩ストレスの有無によってペルオキシダーゼ活性に差はなく、ペルオキシダーゼ活性に影響されずにDABで過酸化水素の局在観察が可能であることが明らかになった。イネの根における光学顕微鏡レベルの組織化学観察で、塩ストレスによって表皮から2層目の外皮にスーパーオキシドが生成し、3層目の厚壁組織に過酸化水素が生成することが明らかになった。今後電子顕微鏡レベルで根の細胞内における過酸化水素の発生部位を明らかにする。
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