研究課題
過酸化水素は、作物のストレス作用物質あるいはシグナル伝達物質として重要である。本研究は、CeC13法およびDAB法を改良して電顕レベルで過酸化水素を検出する組織化学手法を確立することを目的とする。塩ストレス処理をおこなったイネの葉についてCeC13法とDAB法で過酸化水素の分布を調べたところ、いずれも葉緑体チラコイドの周囲に反応産物が検出された。またミトコンドリア、ペルオキシソーム、細胞膜にも過酸化水素が検出された。従来CeC13は組織内への浸透が困難とされ、表皮における過酸化水素の分布観察に用いられていたが、本研究において真空浸潤でCeC13を組織内に浸透すること、組織の切り出し口より5μm以内の部位を観察することによりオルガネラ内の過酸化水素を検出できた。一方、DAB法では過酸化水素との反応産物生成のためにペルオキシダーゼの活性が必要であり、従来は外部から過酸化水素を与えて、細胞内のペルオキシダーゼ活性の分布観察に用いられてきた。しかし本研究において、イネの葉では塩ストレスの有無によってペルオキシダーゼ活性に差はなく、ペルオキシダーゼ活性に影響されずにDABで過酸化水素の局在観察が可能であることが明らかになった。CeC13およびDAB法でほぼ同様の結果が得られたことから、両手法の信頼性は高いと考えられる。CeC13法を用いて、二種類の葉緑体を持つNADP-ME型C4植物のトウモロコシにおける塩ストレスによる過酸化水素の発生を調べた。障害が顕著に発生する葉肉葉緑体において、チラコイドの周辺に過酸化水素が発生していることが観察された。一方、維管束鞘葉緑体では塩ストレスによってアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)とデヒドロアスコルビン酸レダクターゼ(DHAR)の活性が高まり、過酸化水素が有効に除去され、障害が現れにくくなっていると考えられた。
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