東南アジア原産の果樹であるマンゴスチンは、アポミクシス(単為生殖)による種子を形成し、この種子によるクローン繁殖が行われている。これまでに果樹で認められているアポミクシスは、カンキツやマンゴーのように、開花期に珠心組織から不定胚形成がおこることにより生じるどされているが、マンゴスチンにみられるアポミクシスはこれらの果樹とは様相を異にし、果実肥大が始まった幼果期の子室(locule)内に細胞塊が形成され、それが肥大して種子となっている可能性が大きい。本研究では、このことを証明するとともに、この細胞塊の出現とその肥大の要因および最終的に種子としての形態を獲得する機構を調査し、マンゴスチンの特異なアポミクシス機構を解明するとともに、この種子を用いた効率的な繁殖方法を確立することを目的としている。そこで本年度は、まず、マンゴスチンのアポミクシスによる種子形成がどの時期から開始するかを調査した。その結果、幼果期になってはじめて幼果の子室内にある空洞の胚珠の珠皮組織から細胞塊の突起が出現し、この細胞塊が肥大して種子が形成されることを確認した。また、この細胞塊が形成される子室内の空洞の胚珠に存在する胚乳液状の液体を注射器で採取し、有機溶媒での分画後に予備的にGC-MSで分析したところ、IAAが数十ng/mlのオーダーで含まれていることを確認した。また、Jasmonic acidも同レベルのオーダーで存在していることが認められ、少量ではあるがABAも存在していることが認められた。さらに、果実の発育とともにこの溶液中のブドウ糖および果糖の含量も増加していることが確認でき、植物ホルモン様物質やこれらの物質が細胞塊肥大(種子形成)と関連している可能性が示唆された。
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