イネばか苗病菌は、ジベレリン(GA)を生産し、イネに徒長症状を引き起こす。本研究では、ばか苗病菌のGA欠損株(GA^-株)とイネのGA関連変異体を用いて、ばか苗病菌が生産するGAの病理学的機能の解明を目指す。 ばか苗病菌野生株(GA^+株)とGA^-株に、GFP遺伝子をジェネティシン耐性遺伝子とともに導入し、ジェネティシン耐性のGFP発現株を作出した。イネ短銀坊主種子を両株の胞子懸濁液に浸漬接種し、寒天培地に植え付け育成したところ、GA^+株は徒長を引き起こしたが、GA^-株はイネの生育に全く影響しなかった。接種イネからの菌の再分離、共焦点レーザー顕微鏡を用いたイネ組織中の菌の観察によって、GA^+株は地際部周辺からのみ検出され、植物体に蔓延しないこと、GA^-株も地際部に侵入するが、その増殖能力が低下していることが明らかとなった。 イネのGA生合成変異体(d18)、GA受容体変異体(gid1)、GA情報伝達因子変異体(gid2、slr1)の種子を両菌株の胞子懸濁液に浸漬接種し、育苗培土に播種、1カ月間育成した。経時的に草丈を計測するとともに、他の外部病徴(黄化、枯れ症状など)を観察した。その結果、予想通り、d18変異体では、GA^+株接種によって生育が回復、さらに徒長した。一方、他の変異体はGA非感受性であるため、GA^+株、GA^-株のどちらを接種した場合にも生育に変化は認められず、また他の外部病徴も出現しなかった。 GA^+株胞子を混和した育苗培土に、イネ、トマト、メロン、ダイズ、オオムギを播種したところ、イネだけでなく、他の植物にも徒長が引き起こされ、イネばか苗病菌が他の植物にも侵入する能力を持つことが示唆された。また、トマト苗とメロン苗の根にGA^+株の胞子を浸根接種した場合には、徒長は引き起こされず、本菌はこれら植物の種子発芽時にのみ侵入できることが示唆された。
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