ガ類の絹糸腺は絹タンパク質の合成に特化した器官であり、それ以外の生理機能は持たないと考えられてきた。しかし、吐糸中のカイコの絹糸腺で発現する遺伝子を調べたところ、解毒、排泄関連の遺伝子が強く発現していた。また、ガの繭上で微生物が繁殖することがないことから、繭中に抗菌物質が含まれていることが示唆される。このように、絹糸腺は解毒や排泄、抗菌物質の分泌などの多様な働きを担っている可能性が考えられる。そこで本研究では、絹糸腺が実際にこれらの機能を持っていることを証明し、その詳細を明らかにする。 昨年度は、数種類のガ類の繭を集め、大腸菌や黄色ブドウ球菌の培養プレートにこれらの繭をおいてみたが、繭の周りでこれら細菌の生育が抑えられることは無かった。そこで、今年度は糸状菌に絞ってカイコ繭の抽出物の効果を調べた。Ryzopus oryzaeとクワ暗斑病菌(Myrothecium roridum) の植物病原性糸状菌2種および緑きょう病菌(Nomuraea rileyi)、白きょう病菌 (Beauveria bassiana)、Metarhizium anisopliaeの昆虫病原性糸状菌2種に対して、条件を様々に変えて飼育したカイコの繭の50%メタノール抽出物の影響を調べたが、はっきりした成長阻害効果は観察できなかった。 また、昨年度に、カイコの絹糸腺で有機イオンやアミノ酸、糖のトランスポーターの遺伝子が終齢幼虫の吐糸期に限って強く発現することを示した。今年度は、これらの遺伝子の発現動態をRT-PCRでより詳細に調べ、これらの遺伝子の発現がが終前齢期中および終齢期の摂食期中は弱いが、吐糸を開始すると急激に強くなることを確認した。
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