ソフト金属に特異的なキレーター分析法を開発し、タチスベリヒユでのCd応答解析に用いた。根の可溶性画分の分析で、Cdストレスにより増加したピーク成分を検出し、これを分取した。最も蛍光強度の強かったピークは自家蛍光を持り蛍光物質であり、キレーターであるとはいえなかった。この化合物は、^1H-NMRの結果からベンゼン環を含む化合物であるが構造決定にまでは至っていない。植物における蛍光物質として細胞壁のフェルラ酸などが知られており、Cdストレスにより細胞壁がリグニン化してこれらの成分が増加し、それを検出した可能性もある。 一方、不溶性画分に関しては、ペクチナーゼ処理により遊離してくるCd結合物質の構造を解析した。分析で検出した、未知のキレーターのピーク成分を分取し、^1H-NMR、^13C-NMRの2-D NMRにより構造解析した。その結果、^1H-NMRで4.18、4.46、5.08ppm、^13C NMRで68~72、78、100ppmにシグナルが現われ、これらは糖に由来するものと考えられた。特に^1H NMRで5.08ppm、^3C-NMRで100ppmに現われたシグナルは糖の1位のCに由来するピークである可能性が高く、Cd結合物質が糖類であることを強く支持していた。 さらにこの^1H NMRで5.08ppmに現われたピークについて^13C NMRとの相関を測定すると、170ppmのシグナルが観測され、にカルボキシル基と同定され、糖にカルボキシル基の配位した糖酸であると考えられた。また、DOSYスペクトルにより、これらの糖酸に由来すると思われるピークは、拡散速度が遅い。これはこの糖が低分子ではなく、連なった糖鎖として存在していることを示唆していた。 以上から、Cdは細胞壁のポリガラクツロン酸などの糖酸に結合して存在していることが推定された。タチスベリヒユでは、厳しい環境ストレス下に適応するために、細胞内部へのCdの侵入を妨げるために細胞壁への吸着機構を働かせていることが推定された。
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