本研究は、「フラボノイドのような食品成分の日常的な摂取が腸管上皮の解毒系を活性化し、異物侵入に対する腸管バリア機能を強化しているのでは?」という仮説を検証するとともに、フラボノイド等によって誘導される解毒系酵素発現が、ダイオキシン(TCDD)のような有害物質によって誘導されるそれと量的・質的にどのように異なるのかを分子レベルで明らかにすることを目的とした。 TCDDの低毒性アナログ物質である3-メチルコラントレンをマウスに投与すると腸管上皮や肝臓での解毒酵素(CYP1A1など)の発現が上昇したが、フラボンを同時に経口投与することで、その発現応答は抑制された。また、ヒト腸管上皮細胞Caco-2を用いて、メトキシフラボンであるタンジェレティン(Tan)がAhRのアゴニストとしてCYPの誘導を引き起こすことも確認された。TCDDとTanで処理したCaco-2細胞の遺伝子変動をDNAマイクロアレイを用いて解析したところ、変動する遺伝子の種類は両処理でほぼ類似していたが、各種リガンドに対するALDH3A1(薬物代謝酵素)、EREG(EGF受容体リガンド)、FGA(フィブリノーゲン)などの応答性は両処理で顕著に異なっており、AhRによる異物認識には質的な差があることが示された。AhRリガンド結合領域に変異を導入した各種発現ベクターを用いたレポーターアッセイによってAhRとリガンドの相互作用の検討を行った結果、変異導入による転写活性の変化が、Tan、TCDD、ITE(AhR内因性リガンド)の3者で異なることが見出され、AhRリガンド結合領域との相互作用が、遺伝子発現の質的変化をもたらすことが示唆された。AhRアゴニスト活性を示す8種類のフラボノイドを用いた実験で、その1種類のみが制御性T細胞誘導活性を示すなど、AhRとの相互作用のわずかな差が多様な生理機能性発現を導くと考えられた。
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