研究課題/領域番号 |
22658046
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
陶山 佳久 東北大学, 大学院・農学研究科, 准教授 (60282315)
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キーワード | 古代DNA / 分子系統地理 / 葉緑体DNA / ミトコンドリアDNA / 針葉樹 / 花粉分析 / スウェーデン / 国際研究者交流 |
研究概要 |
以下の2テーマについて、花粉化石のDNA分析によって過去に分布した樹木の遺伝的情報を直接取得し、樹木個体群の分布変遷史を時空間的に明らかにする研究に取り組んだ。 1. スカンジナビア半島におけるドイツトウヒの分布変遷史 まず現在ヨーロッパに広く分布しているドイツトウヒのミトコンドリアDNAハプロタイプの地域分布を調べ、スカンジナビアに特有の希な系統が存在することを見いだした。次に、この地域の湖の堆積物から得られた古代DNAの分析によって、この系統がおよそ10,300年前に存在していたことをつきとめた。さらに、共同研究によって別の湖から得られた古代DNAおよび植物遺体の分析によっても、およそ2万年近く前からマツやトウヒがこの地域に分布していたことを明らかにした。これまで、スカンジナビア半島は最終氷期には氷河に覆われており、そこに現在分布している北方針葉樹は当時分布していなかったと考えられていたが、今回の研究の成果は、最終氷期においてスカンジナビア半島に氷河に覆われない"避寒地"があり、北方針葉樹がそこに生き残っていたということを示している。このことは、これまでの氷河時代からの植物の分布に関する常識を覆すものであり、気候変動下における樹木の分布・生残に関して新たな視点を提供するものである。この成果はScience誌に論文として掲載された。 2. ベルーハ氷河周辺におけるマツ属の分布変遷史 ロシアのベルーハ氷河から採取された雪氷試料中の花粉を用い、マツ属の種識別が可能な葉緑体DNAの短い断片を増幅し、マツ属花粉の種識別を試みた。その結果、亜節レベルでの識別まで可能なことが示された。以上の成果は、堆積花粉のDNA分析による、新しい分子系統地理学のアプローチの提案としての意義をもつ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初設定した2つのテーマのうち、1つめについてはその成果がScience誌に掲載されるなど、国際的に極めて高い評価を受ける成果を得た。2つ目については、成果を論文として投稿したが受理されず、現在改善を加えて再度投稿を試みている段階である。また、これらの研究技術について、和文書籍によってその成果の一部を発表した。
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今後の研究の推進方策 |
1つ目のテーマであるスウェーデンの湖底堆積物については、これまでの成果をさらにとりまとめて論文として投稿予定である。2つめのテーマである雪氷試料中の花粉については、これまでの作業を進めるとともに、新しい技術の適用として、新たに開発されたパーソナル次世代シーケンサーを用いて本研究の分析を行うことを計画している。
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