古代花粉のDNA分析によって、過去に分布した樹木の遺伝的情報を直接取得し、樹木個体群の分布変遷史を時空間的に明らかにする研究の基礎技術開発に取り組んだ。 1つ目の分析用試料としてスカンジナビア中部の湖底堆積物を用い、その花粉分析(花粉の外部形態によって分類群を識別する分析)とメタ・バーコーディング解析(汎用性のあるPCRプライマーを用いて堆積物等から抽出したDNAをテンプレートとしたPCR増幅を行い、その配列によって分類群を推定する方法)結果の比較を行った。その結果、花粉分析では48の分類群が検出され、そのうち79%はメタ・バーコーディング解析では検出されないものだった。一方、メタ・バーコーディング解析では14の分類群が検出され、そのうち43%は花粉分析では検出されないものだった。これらのことから、過去の植生の組成を推定する上で、これら2つ手法はそれぞれ代替しうるものというよりは、補完的なものとして用いられるべきだと考えられた。これらの成果をとりまとめて学術雑誌Molecular Ecologyに投稿し、受理された。 2つ目の分析用試料として、山岳氷河のアイスコアから得られたマツ属の花粉を用い、花粉1粒ずつのDNA分析による節レベルでの同定を試みた。すなわち、約150BPの葉緑体DNA断片を増幅して塩基配列情報を取得し、その配列を既存のデータベースと比較した。その結果、得られた配列はマツ属のQuinquefoliae節であると判定され、節レベルでの識別まで可能なことが示された。これらの成果をとりまとめて学術雑誌Environmental Research Lettersに投稿し、受理された。 以上の成果は、堆積花粉のDNA分析による、新しい分子系統地理学のアプローチの提案としての意義をもつ。
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