研究概要 |
申請者らは,サクラマスを白色および黒色水槽で淡水飼育した場合,白色水槽飼育群の海水移行後の生残率が黒色水槽飼育群の値よりも高いことを認めている。この現象は体色の変化を伴うことから,メラニン凝集ホルモン(MCH)もしくは黒色素胞刺激ホルモン(MSH)が本種の海水適応に関与していることが示唆される。本年度は海水移行後の生残率の再現性,Na^+/K^+ATPase(NKA)/活性の測定,およびMCH受容体の存在部位(すなわちMCHの作用部位)を調べた。 (1)海水馴致と斃死:淡水飼育期間中からサクラマス幼魚を白色水槽と黒色水槽に分けて一定期間飼育した。その後,海水白色水槽と海水黒色水槽へそれぞれ移し,生残と斃死の経過を観察したが,生産率に差異は認められなかった。 (2)電解質とホルモン:血中電解質とホルモンの測定に先行して,淡水の白色水槽および黒色水槽でそれぞれ飼育したサクラマスにおける,鰓のNKA活性を測定した。その結果,飼育開始から70日後の白色水槽飼育群における鰓のNKA活性は,黒色水槽飼育群のそれより3倍高い値を示した。 (3)MSH遺伝子発現およびMCH遺伝子発現と海水適応:本年度は,サクラマスに存在する2種類のMCH受容体遺伝子(mch-1rおよびmch-2r)の発現部位を明らかにすることを目標とした。まず,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法によって,mch-1rとmch-2rを発現する器官・組織を検索した。その結果,mch-1rが水・電解質代謝に係る器官の鰓で強く発現することを見い出した。そこで,mch-1rの発現細胞をin situハイブリダイゼーション法によって調べたところ,鰓のある種の細胞で発現していることを認めた。NKAの特異抗体による免疫組織染色法によれば,この細胞は塩類細胞である可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の成否はメラニン凝集ホルモン受容体が水・電解質代謝に係る器官,組織,あるいは細胞に存在することを見い出すことができるか否かに掛っている。平成23年度には,当該受容体の遺伝子がサクラマス鰓に存在する塩類細胞で発現している可能性が高いことを示すことが出来た。この成果により,本研究は,その達成に向けて大きく前進したことになる。
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