ユノハナガニの赤色オプシンコードすると推測される遺伝子産物について、抗体を用いてユノハナガニの視覚器官が分布すると考えられる部位における分布を、ウエスタンブロット分析ならびに免疫組織分析により調べたが、明確な分布を示唆する結果をえることはできなかった。これらの結果は、深海性のカニであるユノハナガニの情報収集の視覚への依存性が低い可能性を示唆していた。そこで最終年度は、当初計画していたもうひとつの感覚受容体であるTRPファミリーに属する遺伝子を分布粗調べた。その結果、嗅覚や味覚に関わると想定される遺伝子群の存在が示唆された。これらの中には、イオン型受容体も含まれ、ユノハナガニが種々のセンサー遺伝子を有することを示していた。これらのうち、いくつかを選んで部分長に相当する遺伝子を挿入した発現ベクターを構築し、組換え体を作製した。これらを用いて抗体を作製し、頭部の破砕液を用いてウエスタンブロット分析を行った結果、いくつかの遺伝子産物についてはその存在を確認することができた。これらの結果は、各種のケミカルセンサーが深海生物において実際に発現し、一見、光が存在しないように見える状況においても的確に近傍の情報を捉えていることを示すものである。また、これらの受容体の中には多くのアミノ酸センサーも含まれていることから、深海生物が近隣の生物情報をアミノ酸濃度の勾配としてとらえ、おそらくは餌の捕捉に利用しているものと推察された。
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