養蜂と農業生産とりわけ土地利用型農業の部門間関係を捉えるために、岐阜県におけるれんげ利用を対象に実態調査を行った。化学肥料の普及とともに飼肥作物としてのれんげ作付の意義が薄れたことに加えて、田植えが早期化し、れんげの作付はピークだった昭和30年代の10分の1以下に激減した。そのため、蜜源としてのれんげ作付を維持するために養蜂業が種子を提供することが行われるようになっていた。種子の負担額は10a当たり1400円~2100円となり、数十haの規模(濃密調査事例では50ha)で負担していた。これをれんげ蜜の商品価値から評価すると、調査年ではれんげ蜂蜜売上高の4割から5割を占める試算結果となった。土地利用型農業の技術の進歩と変化が水田の作物の多様性を低めることにつながり、結果れんげ作付のコスト負担の構造を変えたことが明らかとなった。 また、水田のカメムシ防除に用いられる農薬が昆虫の生態に及ぼす影響が指摘されているが、農業労働力の減少と高齢化が適正な畦畔等の管理を困難にし、そのことがカメムシの被害を増大させ、農薬投入が増大あるいは持続性の高い農薬を指向するといった農業の担い手問題と間接的に関連していることが示唆された。 授粉作業については、ある作物が一定程度集中することによって授粉昆虫が増加する園地集積の効果が指摘でき、それによって産地規模の違いと授粉作業の有無をある程度説明することが可能であった。他方で、多様性喪失の問題から、規模の経済と範囲の経済による解釈の可能性が示唆された。 ドイツにおいて農業生産の持続性に関わる指標について調査したところ、生物多様性の重要性は指摘されており、土壌保全、環境保全の観点からのモデル分析等はあるものの、ポリネーションの視点をとり入れて経営レベルあるいは集落レベルで分析指標として定式化されるまでには至っておらず、この研究の展開の必要が認識された。
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