本研究は、我が国で有機農産物が一般化しつつある現段階における、有機農産物市場の性格と有機農業者の課題及び政策的課題を明らかにすることを目的としている。具体的内容は、第1に、JAS有機農産物表示制度導入後における有機農産物流通の展開状況を明らかにするとともに、表示制度のメリットと課題を生産者、流通業者、消費者の各立場から明らかにすること。第2に、有機農業推進法のもとで各都道府県が策定する推進計画について、先進的事例における計画の内容及び具体的施策並びに課題を明らかにすること。第3に、以上の研究結果をもとに、有機農業推進法に基づく施策がJAS有機農産物表示制度の課題を克服する可能性と、両者の政策体系の整合性等の課題について明らかにすることである。2010年度の研究実績は次の通りである。 第1は、多様化している有機農産物流通の各経路における動向の把握である。有機農産物の流通経路・形態としては、産消提携、有機農産物専門流通業者、生協、量販店、百貨店、加工業、外食産業、商社などがあるが、これらのうち、有機農産物専門流通業者を中心に、代表的な事例を対象とする調査を実施した。全体としてJAS有機農産物表示制度の普及は緩やかであるが、量販店や外食業者への仕向けを中心としてJAS有機農産物を専門的に取り扱う卸売業者の伸長が特徴的である。 第2は、各都道府県の有機農業推進計画における有機農業の位置付け、具体的な施策、課題などの調査・整理である。2010年度は特に先進的な地域として、北海道、岩手県、福島県、兵庫県、鹿児島県について調査を実施した。有機農業の位置付けや具体的な施策への反映といった点では自治体による差が大きく、自治体独自の財源による施策の実施は容易ではないが、参考となる特徴も見られた。
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