本研究は、我が国で有機農産物が一般化しつつある現段階における、有機農産物市場の性格と有機農業者の課題及び政策的課題を明らかにすることを目的とする。 具体的には、第1に、JAS有機農産物表示制度導入後における有機農産物流通の展開状況を明らかにするとともに、表示制度のメリットと課題を明らかにすること。第2に、有機農業推進法のもとで各都道府県が策定する推進計画について、先進的事例における計画の内容及び具体的施策並びに課題を明らかにすること。第3に、以上をもとに、JAS有機農産物表示制度と有機農業推進法の政策体系の整合性等の課題を克服する可能性について考察することである。 研究の結果、第1に、JAS有機農産物表示制度導入後、一般の量販店や加工・外食産業における有機農産物の取り扱いが拡大しているものの、その伸張は国内生産ではなく輸入品に偏っている。JAS有機農産物表示制度は①国外の有機食品生産者、②不特定多数の消費者を対象とする一般の量販店、加工・外食業者などの実需者、③それら実需者を利用する消費者、第4に実需者に供給する商社や国内の有機農産物専門卸売業者にメリットをもたらしている。しかし、国内の生産者においては消費地からの遠隔産地や、一般の実需者向けに供給する生産者に限定されている。 第2に、各都道府県の有機農業推進計画において、有機農業は環境保全型農業の一部として位置づけられる場合と、環境保全型農業とは区別して位置づけられる場合とに分かれる。推進計画が定められた時期も施策もバラつきが大きく、具体性・実効性や予算措置の点で課題が見られる。 第3に、JAS有機農産物表示制度と有機農業推進法の政策体系の整合性に関する課題を克服するためには、有機農業推進法に基づき有機農業を対象とする実効的な施策の充実が求められる。
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