矢田農園より分譲を受けた'紀州在来薬用紫蘇'と比較品種'赤しそ'を近畿大学生物理工学部のガラスハウス内に試験栽培した。紀州在来薬用紫蘇の形態的、発育生理的およびペリラアルデヒド含量に関する系統内個体間変異は、比較品種における変異に比べて大きくはなかった。このため、紀州在来薬用紫蘇の遺伝的純度は比較品種と同程度に高く、さらに選抜を行う必要はないと考えられた。また、紀州在来薬用紫蘇は比較品種よりも葉が大きく、乾燥葉重量あたりのペリラアルデヒド含量もおよそ2倍であった。このことは、紀州在来薬用紫蘇の機能性食品市場における優位性を示している。 ペリラアルデヒドなどの機能性成分は、葉の裏に形成される精油胞内に蓄積される。精油胞の形成を収穫適期の指標とするため、可搬型顕微鏡を用いて、精油胞の形成を幼苗期から成熟期まで経時的に調査した。その結果、精油胞は幼苗期に既に形成され、生長にともなって増加するわけではないこと、および、成熟期の少し前に精油胞内への精油の蓄積が始まり、精油胞が大きくなることが明らかになった。したがって、精油胞の観察所見は成熟の指標となるが、精油胞密度は指標とはならないと考えられた。ただし、紀州在来薬用紫蘇では、成熟期の精油胞密度が高いほどペリラアルデヒド含量も高くなったため、精油胞密度は品質の評価指標として利用できる。なお蘇葉では、日本薬局方における精油含量の規定が削除されたため、和歌山県工業技術センターへの精油含量測定の委託は中止した。 一方、自然光栽培下のシソに青色光補光(470nm)を行ったところ、補光区では花成が著しく阻害された。花成が阻害されることで二次代謝の抑制が懸念されたが、想定に反して、ペリラアルデヒド含量は補光によって顕著に増加した。特に紀州在来薬用紫蘇において増加幅が大きかったことは、青色光補光が機能性の向上に役立つ可能性を示している。
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