23年度の試験において‘紀州在来薬用紫蘇’内の個体間に機能性香気成分ペリルアルデヒド(PA)含有量の差が認められた。そこで、PA含有量の高い個体5個体と低い3個体を選んで次世代を栽培してPA含有量に関する親子相関を解析ことによって高機能性に関する成分育種の可能性を検討した。2反復の試験の結果、相関係数rは0.14ないし0.29であり、いずれも有意ではなかった。したがって、23年度に観察されたPA含有量に関する個体間変異が遺伝的に支配されている可能性は低いと考えられた。これまでの形態的変異に関する調査結果と合わせると、‘紀州在来薬用紫蘇’は(適切な種子管理を行う範囲において)純系と見なし得ることが示唆された。 一方、青色LEDによる補光が‘紀州在来薬用紫蘇’の花成を顕著に抑制すると同時にPA含有量を有意に増加させるという結果が得られているが、このPA含有量の増加が青色光補光への直接的反応か、花成抑制を経由する二次的反応かはまだ明らかではない。そこで、生育相のさまざまな時期に短期間(5日間)の青色光補光を行ってPA含有量の変化を調査した。その結果、生殖生長相にある‘紀州在来薬用紫蘇’への青色光補光がPA含有量をわずかに増加させたものの、有意水準には達しなかった。栄養生長相のシソへの補光は全く効果を示さなかった。このことから、青色光補光は花成抑制を介してPA含有量を増加させたことが明らかになった。 さらに、‘紀州在来薬用紫蘇’の香気成分を他のシソ品種と比較した。‘紀州在来薬用紫蘇’は近縁のチリメンアカジソ2品種の数倍以上の香気成分を含有していること、および、同様に強い香気を特徴とするチリメンアオジソやカタメンジソと比べると、ペリルアルデヒドとリモネンの比率が顕著に高く、このことが本種の特異な香りを特徴付けていると考えられた。
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