研究概要 |
鳥類のオスの生殖器にはウイルスと細菌性微生物が侵入することがあり,生殖器の組織と精子が感染するリスクは高い.トリβ-ディフェンシン(avBD)は自然免疫系で働く抗菌ペプチドである.Toll様受容体(TLR)は微生物成分を認識する分子である.体細胞では微生物成分によるTLRの刺激で炎症性サイトカインやavBDの産生が刺激される.オス生殖器では,適応免疫系が劣ると考えられており、このため,自然免疫が発達していることが推定される.本研究では,鳥類のオス生殖器と精子自身の感染防御機構が存在することを検証することを目的とし,オス生殖器がTLRを発現し,これの刺激がβ-ディフェンシンや炎症性サイトカインの産生を促すという機構の存在を追究する.本年度は,オス生殖器におけるTLR,炎症性サイトカイン,およびavBDが発現することを検証したところ、精巣、精巣上体および精管に、それぞれ7種、6種及び5種のTLRが発現し、これらにはグラム陰性菌とRNAウイルス成分を認識するTLR4とTLR3が含まれていた.また、精巣と精巣上体には10種、10種及び7種のavBD遺伝子が発現し、さらに3種のavBD蛋白について免疫染色で局在を解析すると、精巣の精子とセルトリ細胞、精巣上体の上皮細胞に免疫反応が検出された.炎症性サイトカインのIL-1β、IL6IFNγ遺伝子も精巣や精巣上体で発現することも確認した.TLRが微生物成分を認識して抗菌因子やサイトカインを産生する可能性の基礎が得られた.現在、TLR4とTLR3のリガンドで刺激すると生殖器の炎症性サイトカインの発現が増加することを示す若干の知見も得ている.
|