本研究では、胎盤にしか分化できない栄養膜細胞が全能性を獲得する能力を有するかを明らかにするために、栄養膜幹細胞(TS細胞)をドナーとした核移植胚を構築しその発生能を調べた。まず最初に、ドナーに用いるTS細胞をICR、 B6D2F1およびB6CBF1の計3系統のマウスの胚盤胞から樹立した。その結果、ICRでは7ライン、B6D2F1では6ライン、B6CBFIでは9ラインのTS細胞が樹立できた。樹立したTS細胞のうち、ICRの1ライン、B6D2F1およびB6CBF1の各2ラインをドナーとして核移植胚を構築し、胚盤胞への発生率を系統間で比較した。その結果、胚盤胞への発生率はICRで最も高かったが、その発生率は約15%で、ES細胞をドナーとした核移植胚の発生率(約70%)と比較して著しく低下した。B6D2F1およびB6CBF1ではさらに低く、それぞれ0-3%、4-9%であった。これら核移植胚の多くは2細胞期で発生を停止したことから、2細胞期における胚ゲノムの活性化に異常が生じていると考えられた。一方、発生した胚盤胞は形態的に正常であり、内部細胞塊および栄養膜細胞の細胞数は、受精卵由来胚盤胞と変わらなかった。また、胚盤胞におけるOct3/4の局在を調べた結果、受精卵由来胚盤胞と同様に内部細胞塊でのみ局在が認められた。したがって、核移植によりTS細胞は内部細胞塊を形成する能力を再獲得しうることが示された。
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