一般的にミトコンドリアは母系遺伝するが、これは精子として受精卵に持ち込まれた父性ミトコンドリアが選択的に分解されるためである。本研究では、受精卵における精子ミトコンドリアの分解と細胞質で起こる大規模な分解系であるオートファジーとの関連性に焦点を当てて、生命の根幹とも呼べるミトコンドリア母系遺伝の分子メカニズムの一端を明らかにすることを目的としている。当該年度では、受精卵の発生段階における精子ミトコンドリアの分解状況とオートファジーの誘導状況の観察を行った。これまでの先行研究によって精子ミトコンドリアが受精後の4~8細胞期に消失することが報告されていたが、受精直後からの分解状況を詳細に解析した研究はなかった。そこで、精子のミトコンドリアが赤色蛍光色素で標識される遺伝子改変マウスの精子と野生型マウス由来の卵子を用いて体外受精を行い、受精直後から精子ミトコンドリアの分解状況を詳細に検討した。その結果これまでの報告通り、精子ミトコンドリアは受精後の4~8細胞期で完全に消失するが、受精後の1細胞期の細胞質中ですでにその構造体を変化させていることが分かった。また、この時期の細胞質ではオートファジーが活発に誘導されており、精子ミトコンドリアの初期段階での分解とオートファジー誘導は密接に関連していることが示唆された。精子ミトコンドリアはユビキチン化によって選択的に分解されるという説がよく知られているが、本研究によって、オートファジーを介した新たな分子メカニズムを提唱できる可能性がある。今後は、オートファジーの機能を欠損した受精卵における精子ミトコンドリアの分解状況を同様の実験系で解析する予定である。
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