ニワトリの性別は産業的に大変重要であるが、ニワトリの雌雄がどのように決定されるのか、性決定メカニズムは未だ明らかとなっていない。申請者はニワトリの性決定遺伝子がみつからない要因として、鳥類特異的な遺伝子であること、性決定時期のごく限られた期間にしか発現せず、かつその発現量が低いこと、を想定し、雌雄の生殖腺に発現している転写産物を、網羅的にスクリーニングした。その結果、生殖腺特異的な発現を示し、ZあるいはW上に存在する新規遺伝子配列を7種類同定した。申請者は研究期間内にこれら7種類の新規候補遺伝子の詳細なキャラクタライゼーションを行ない、性決定遺伝子であるかを検証した。前年度の研究実施により、候補遺伝子7種類のうち、Z染色体上の遺伝子2種類、W染色体上の遺伝子1種類の計3種類に、さらに解析対象をしぼった。これら3種類の遺伝子について、qRT-PCR法を用いて、生殖腺中のmRNA発現量を定量した。ゲノムデータベースを用いて、エクソン、イントロンなどのゲノム構造を確認した。また、Z染色体上に遺伝子1種類においてのみ、データベースによりORFを予測し、特異的抗体を作製した。作製した抗体を用いて、各組織についてウェスタンブロッティングを行ない、タンパク質のサイズ、発現様式を確認した。生殖腺の切片を作製し免疫染色を行ない、発現部位を特定した。以上の実験により、Z染色体上の1種類の遺伝子は、哺乳類では造血系細胞の分化に働く転写因子として知られる遺伝子のホモログであり、鳥類では哺乳類と同様に造血系で機能するだけでなく、鳥類特異的に精巣分化に関わる新しい機能が確認された。Z染色体上のもう1種類の遺伝子は、性分化への関わりはないと判断された。また、W染色体上の1種類の遺伝子は、ユビキチン結合酵素の一種であることは明らかとなったが、卵巣分化にどのように関わるのかまでは確認できなかった。
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