研究概要 |
受精前の卵は生殖細胞として最終分化した状態にあるのに対し、受精後の胚はどのような細胞にも分化できる全能性を有している。また分化した体細胞の核を未受精卵あるいは受精直後の胚の細胞質に移植することによって作成された体細胞核クローン胚は、全能性を獲得している。このように受精前後の卵あるいは胚の細胞質中には、分化した細胞核を全能性のあるものに変換する因子が存在するものと考えられる。一方、近年、分化した体細胞に4つの因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を強制発現させるだけで、多能性を持つ胚性幹細胞様の細胞に変化させることができることが示された。そこで本研究では、これら4つの因子の受精前後における全能性獲得機構への関与を明らかにすることを目的とした。 昨年度の結果より、4つの山中因子のうちOct3/4とc-Mycの発現量が受精前後に多いことが明らかとなった。そして、まずOct3/4の発現をRNAiで抑制したところ、受精後の発生が阻害された。そこで本年は発生停止の原因を解明するため、RNAiでOct3/4の発現を抑制された胚での胚性遺伝子発現(Zygotic genea ctivation : ZGA),を調べた。その結果、ZGA遺伝子の発現量が低下しているものが見られた。この結果は、Oct3/4が受精後の遺伝子発現リプログラミングに関与していることを示唆するものである。さらに、発生を停止した胚の染色体を詳細に調べた結果、微小染色体が多くの胚にみられ、Oct3/4が染色体分配にも関与していることが示唆された。以上の結果は、これまでほとんど明ちかにされていなかった受精後の遺伝子発現プログラムのメカニズムについて分子レベルでの解明に大きく寄与するものと考えられる。
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