冬眠動物が極度の低体温下で生命を維持ためには、冬眠前に短日・寒冷環境へ馴化する過程が必須であると考えられている。しかし、研究代表者らはハムスターを冬眠状態にするために、冬眠前の短日・寒冷環境への適応は必須ではなく、脳内のアデノシン系の活性化が重要であることを明らかにしてきた。この成果を基にして、非冬眠動物においても脳内のアデノシン系を活性化させれば、10℃を下回る体温でも生存させることは可能であると考え、立案されたのが本研究である。従って、本研究の目的は、冬眠しない動物であるラットを「低体温・冬眠状態」に誘導する手法を確立することである。ラットに対して、ハムスターを冬眠させる条件(段階的な短日、低温環境への移行)を与えたが、冬眠あるいは低体温状態になることはなかった。この結果から、ラットは自発的な冬眠を行う能力を持たないことが確認できた。次に、麻酔下のラットを低温環境(4℃)に置いて、強制的に低体温を誘発したところ、ハムスターとは対照的に体温が20℃を下回る頃に、心房細動が発現し速やかに心停止に至った。一方、脳室内ヘアデノシン受容体アゴニストを投与して、低温環境下に置き、シリアンハムスターの冬眠と同等の低体温状態に誘導できるか検討したところ、体温が20℃を下回っても、健常な洞律動が維持され、生存できるかとがわかった。この結果は、自然環境下で冬眠することのない動物でも、条件が整えば冬眠と近い状態で生存できることを示唆する。今後、より詳細な条件の検証をすることによって、人為的に制御された状態で極度の低体温を誘発できるようになることが期待される。
|