本研究は、最近申請者が同定した、絶望行動を制御する遺伝子"Usp46"の突然変異マウスを児童虐待のモデルとして活用し、仔マウスに及ぼす虐待の影響を行動学的、神経科学的組織学的観点から明らかにすることを目的としている。Usp46突然変異マウスの養育行動は児童虐待に極あて類似しており、動物モデルとして確立できる可能性が高い。本研究計画は、児童虐待を生物学的視点からとらえ、そのメカニズムの解明により臨床医学へ橋渡しすることを目指すものである。本年度は、以下の実験を行った。 (1)親マウスの養育行動の解析 生後間もない仔マウスをケージの3角に1匹ずつ置き、仔マウスに対する行動を30分間ビデオに収録し、様々な項目についてUsp46変異マウスと正常マウスを比較し、Usp46変異マウスの養育行動の低下を確認した。 (2) 母子分離ストレスによる成長後の行動への影響 出生後15日から1週間(6時間/日)の母子分離を与え、8週令になったマウスについて各種行動実験を行った。その結果、特に、Usp46変異マウスの社会性行動に差が認められた。 (3)里親マウスによる育児 Usp46突然変異マウスと、正常なUsp46を持つマウスの間で里親交換実験を行い、養育行動への影響について検討した。その結果、Usp46突然変異マウスに育てられた正常マウスは、コントロール群と比較して、仔を温める時間や巣作りをする時間など養育行動に従事している項目で低下が認められた。
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