ほ乳類のゲノムでは、遺伝子の占める割合がわずか2%程度である一方で、内在性レトロウイルスの配列が占める割合は8%から10%と非常に高い。最近の研究により、内在性レトロウイルスが、胎盤の形成や病原性ウイルスの防御に関わっていることが明らかになってきた。このことは、ほ乳類は生理学的機能の進化のためにレトロウイルスを積極的に取り込み(内在化)、利用してきたことを意味する。ところがコアラレトロウイルス(KoRV)は内在性レトロウイルスでありながら、病原性を保持しており、白血病や免疫不全などを引き起こしている。平成22年度は、KoRVを遺伝学的ならびに生物学的に主に解析した。これまでに我々はenv遺伝子の配列の違いから4つのサブタイプ(A-D)を明らかにしているが、シュードタイプウイルスを用いたLacZアッセイにより、これらのサプタイプのうちenv遺伝子として機能的であるものはサブタイプAとBのみであった。また、サブタイプAはネコ白血病ウイルスサプグループBと受容体干渉し、ともにリン酸トランスポーターの一つであるPit-1分子をウイルス受容体として使用していた。一方、サプタイプBは調べた限りどのウイルスとも受容体干渉せず、未知の分子を受容体として使用していると考えられた。また我々は、KoRV-Aの全長遺伝子のクローニングに成功し、KoRV-AのEnv蛋白に特異的な抗体を作製した。現在、クローニングしたKoRV-Aのクローンの生物活性について解析を行っている。
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