研究概要 |
[目的]微生物発酵生産では、細胞内外の基質・産物の取り込み排出制御が残された大きな未開拓領域である。微生物輸送体は主に遺伝学的に解析され、改変は発現量の制御に留まっている。生化学的に解析された輸送体は限定的で、特に物質生産菌の輸送体では少ない。そのため、輸送体本体の蛋白質工学的改変による制御は実現していない。本研究を実施することで、輸送体分子本体の(i)基質特異性の制御、(ii)輸送方向制御(取込み・排出)の新技術基盤を確立する。さらに本研究では、(iii)未知であった取込み輸送体、排出輸送体、交換輸送体間の進化的関係に新情報をもたらす。輸送体の基質特異性及び輸送の方向性(取り込み・排出)を制御する新技術を開発するために、工業細菌のL-アスパラギン酸(Asp):L-アラニン(Ala)交換輸送体AspTをモデルに、基質特異性の改変、交換輸送体から取り込み専用輸送体および排出専用輸送体への人為的改変を行う。 [実施計画]AspTの第3膜貫通領域(TM3)のsingle cysteine置換体を用いて、AspとAlaの輸送能残存率の異なる変異体を同定する。それらの変異体について他のアミノ酸の輸送能の変化を比較する。 [研究実績]AspTのTM3変異体のうち、R76,S80,S83,S84変異体では野生型に対してAsp輸送活性の著しい低下が認められたのに対して、Ala輸送活性の低下が殆どなく、TM3はAspの結合サイトであることが示唆された。さらにこの結果は、Alaの結合サイトがAspの結合サイトと独立して存在することを示している。Aspの基質アナログ阻害剤であるL-cyteinesulfinic acid、L-cysteic acidがTM3変異体のAla輸送を阻害しにくいことからも指示される。
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