これまでに、昆虫の嗅覚受容体を発現する異種細胞を利用した嗅覚センサ開発の試みがなされてきた。しかし、匂い物質は一般に揮発性が高く難水溶性のため、細胞を浸す液中に匂い分子が溶け込まず、嗅覚受容体発現細胞まで匂い分子が到達しないことがセンサ実現の障壁となっている。本研究では、昆虫の嗅覚受容細胞を囲む感覚子リンパ液中で発現し、匂い分子の可溶化および嗅覚受容体への輸送機能をもつ匂い結合タンパク質(OBP)を用いて、気中の匂い分子を液中に可溶化する技術を開発することを目的とする。本年度は、カイコガフェロモン結合タンパク質(BmPBP)を用いた大腸菌でのOBPの大量発現系と簡便な精製法の確立に向けた条件検討を行った。OBPの機能発現には6つのシステインが3対の分子内ジスルフィド結合を形成する必要があるため、大腸菌を用いて機能を保持したOBPを発現するためにはペリプラズムで発現させる必要がある。また簡便な精製のためのタグとして、精製効率が高くタグフリーの精製タンパク質を得ることができるeXactタグが有効であると考えた。そこで、N末端にペリプラズム移行シグナル配列とeXactタグを融合させたBmPBPを大腸菌で発現させ、最も発現効率のよい培養条件を検討した。これまでに可溶性画分における大量発現は確認できたが、ペリプラズムにおいて十分な発現を誘導できる条件は得られていない。今後、異なるペリプラズム移行シグナル配列を検討するとともに、可溶化画分からの精製とリフォールディングによる機能的OBPの精製を進める予定である。
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