DNAのダイナミックな高次構造変換は遺伝子発現において重要な役割を果たしていると考えられている。しかし、試験管内で証明された高次構造の生体内での機能については、必ずしも明快な解答が得られていない。通常の右巻きらせんB型DNAとは異なる左巻きらせんZ型DNAについても同様であり、生体内での役割の解明に有用な分子ツールの開発が望まれている。そこで本研究では、光照射によりDNAのB-Z相互変換を制御できるフォトクロミックDNA結合リガンドの創製を目指す。 本年度は以前開発したビスアリールカチオンリガンドの光環化-開環異性化を検討したが、水中での効果的は異性化が困難であることがわかった。そこで環化体として得られるヘリセン構造の立体異性体を単離したところP体はB-DNA、M-体はZ-DNAに、それぞれ高い親和性を示すことがわかった。 ビスアリールカチオンリガンドではフォトクロミズムが達成できなかったので、光異性化能をもつアゾベンゼンをもつカチオンリガンドを合成し、光異性化の検討とそれによるB-Z相互変換機能を調べた。その結果、光照射(550nm)によってtrans->cis光異性化が起こることがわかった。transアゾベンゼンをもつカチオンリガンドはBからZ-DNA遷移能を示したが、光照射によってcis異性体の比率が増加するに伴い、Z-DNA誘起能が低下することがわかった。 このように、平成22年度にはアゾベンゼンを用いることによってフォトクロミックDNA結合リガンドの創製の可能性があることがわかった。次年度はさらに効果的なフォトクロミズムの達成を検討する。
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