DNAのダイナミックな高次構造変換は遺伝子発現において重要な役割を果たしていると考えられている。通常の右巻きらせんB型DNAとは異なる左巻きらせんZ型DNAも生体内での存在や役割について完全には明らかになっていない。そこで本研究では、最終的には生体内で作用する有用な分子ツールの開発を目的に、光照射によりDNAのB-Z相互変換を制御できるフォトクロミックDNA結合リガンドの創製を目指した。 昨年度にビスアリールカチオンリガンドの環化体として得られるヘリセン構造の立体異性体を単離し、表面プラズモン共鳴(SPR)で錯体形成を評価しP体はB-DNAに、M-体はZ-DNAに高い親和性を示すことを明らかにした。本年度はさらに等温滴定カロリメトリ(ITC)を用いて錯体形成の詳細を調べた。その結果、P体はB-DNAとKs=2-3x10^8M^<-1>の安定な2:1錯体を形成しB-DNAを安定化することが分がった。一方、M体はZ-DNAとKs=5.6x10^7M^<-1>の1:1錯体を形成し、やや小さいもののほぼ同程度の親和性でB-DNAとも錯体形成することが分かった。 昨年度に、ビスアリールリガンドにナフタレン環をアゾベンゼンにしたリガンドを合成し、光異性化によるB-Z相互変換機能があることを確認したが誘起能は低いものであった。そこで本年度は、アゾベンゼン基とナフタレン環を一個ずつもつモノアゾベンゼンリガンドを合成した。その結果、リガンドの添加によりB-Zが遷移が誘起され、さらに光照射にょりB-DNA、の再変換されることが分かった。 このように、平成23年度にはモノアゾベンゼン体を用いることによって光照射によりB-Z相互変換を制御できるフォトクロミックDNA結合リガンドの創製に成功した。
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