糖鎖は、核酸、タンパクに次ぐ第3の鎖として知られており、遺伝子やタンパク質だけで表現できない多様な生物シグナル伝達因子として認識されている。糖鎖配列は、核酸やタンパクよりも極めて多様性に富んでおり、特定の配列をもつ糖鎖を大量に供給することは、糖鎖の機能解明や糖鎖の関与する疾患などの予防と治療のために、ますます重要になりつつある。そこで本研究は、DNAおよびその誘導体をテンプレートとして用い、核酸塩基配列に対して相補的に糖鎖を並べ、プログラム化された糖鎖配列を選択的に合成する新しい手法を開発することを目的とする。核酸の塩基配列情報を、直接糖鎖配列へ変換する。 本研究の最も重要な点の一つは、核酸塩基とチオグリコシドを結合した人工糖供与体の設計、合成である。通常の化学的グリコシル化反応では、1位(アノマー位)以外のOH基を保護した糖供与体の1位に、活性化可能な置換基を導入する。本研究では、活性化を受ける部分に核酸塩基を導入すること、安定で長期保存が可能であること、活性化剤や溶媒、生成物の立体化学に関する知識が豊富であることから、チオグリコシドを選択し、糖がチオグリコシドを介して核酸塩基と結合したヌクレオチオ糖(T-Galなど)を設計、合成することにした。初年度(平成22年度)は、チミジン(T)とガラクトース(Gal)が結合したヌクレオチオ糖(T-Gal)の合成を行った。bromobenzeneから8工程でTの入ったチオールを合成し、Galとの反応によってT-Galを合成した。T-Galとグルコース誘導体のグリコシル化反応を行ったところ、目的とするラクトース誘導体(Galβ1→4Glc)が比較的良好な収率で得られた。このことから、脱離基がTを含んでいてもグリコシル化反応が進行することが証明された。
|