研究概要 |
本研究の目的は、DNAおよびその誘導体をテンプレートとして用い、核酸塩基配列に対して相補的に糖鎖を並べ、プログラム化された糖鎖配列を合成する新しい手法を開発することである。本質的には、核酸の塩基配列情報を、直接糖鎖配列へ変換することを意味する。 本目的を達成するために、活性化を受ける部分に核酸塩基を導入すること、安定で長期保存が可能であること、活性化剤や溶媒、生成物の立体化学に関する知識が豊富であることから、チオグリコシドを選択し、糖がチオグリコシドを介して核酸塩基と結合したヌクレオチオ糖(T-Galなど)を設計、合成した。まず、チミジン(T)とガラクトース(Gal)が結合したヌクレオチオ糖(T-Gal)を合成した。この合成は、bromobenzeneから8工程でTの入ったチオールをつくり、Galのアセテートと反応させることによってTとGalが結合したヌクレオチオ糖(T-Gal)を合成した。また、adenine(A)を有するGalおよびアセチルグルコサミン(GlcNAc)のヌクレオチオ糖A-Gal、A-GlcNAcも合成した。さらに、これらのヌクレオチオ糖合成の単段階で合成するルートの確立にも成功した。 T-Galとグルコース誘導体のグリコシル化反応を行ったところ、目的とするラクトース誘導体(Gal(β1→4) Glcなど)が比較的良好な収率で得られた。このことから、脱離基がTを含んでいてもグリコシル化反応が進行し、目的とするラクトース誘導体(Galb1→4Glc)が良好な収率で得られた。 しかし、T-Galとアデノシン誘導体のグリコシル反応、およびA-Gal、A-GlcNAcを糖供与体とするグリコシル反応では、上記の反応条件では殆ど反応が進行しなかった。そこで、反応条件を種々検討したところ、MePhSCl+AgOTfという活性化剤の組み合わせによって、目的とする二糖が得られることを見出した。 一方、プログラミングに用いるDNAテンプレートについても、A、T、C、Gを有するグリシンユニット合成が済んでおり、現在それらをペプチド結合で連結させている。今後は、他の糖供与体(例: C-NeuNAc, G-Glc)の合成と、それらのグリコシル反応の検討、DNAテンプレート合成と、テンプレート存在下でのグリコシル化反応の検討を行う予定である。
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