研究課題
EPAやDHAなどの多価不飽和脂肪酸の高次脳機能に対する作用機序は不明であり、統合失調症における予防や治療に多価不飽和脂肪酸の摂取が有効であるという医学的根拠も得られていない。本研究では多価不飽和脂肪酸の細胞内結合タンパク質で、神経細胞においても発現が高い心臓型脂肪酸結合タンパク質(H-FABP)の神経機能における役割を追究する。私達はH-FABP欠損マウスにおいて認知機能障害と錐体外路系行動障害が見られることを明らかにした(Journal of Neuroscience, 2011)。本研究ではH-FABP欠損マウスにおいて情動行動異常、特に不安様行動が著しく亢進することを見出し、その神経回路異常について解析した。欠損マウスでは帯状回皮質神経細胞でのカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)と(CaMKIV)の活性が有意に低下した。同時にこれらの核内基質タンパク質で、転写因子であるCREBのリン酸化反応が著しく低下していた。一方、帯状回皮質から投射を受けている扁桃体では逆に、CaMKIIとCaMKIVの活性は上昇しており、このことが不安様行動の亢進に関与することが示された。私達はH-FABPがドパミンD2L受容体と結合することを報告している。本研究ではD2L受容体を恒常的に発現する細胞株を用いて、H-FABPの共発現の効果を検討した。H-FABPの共発現により、D2L受容体を介する細胞外シグナル活性化キナーゼ(ERK)の活性上昇が見られた。今後は、ERKの活性化に関与するGタンパク質の同定と神経機能における役割について追究する。本研究では多価不飽和脂肪酸が結合するH-FABP欠損マウスにおいて情動行動異常がおこることを明らかにした。H-FABP欠損マウスではD2L受容体の機能が低下していることから、情動行動異常にもドパミン神経伝達の異常が関与する可能が考えられる。
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