酸化LDLは動脈硬化の発症・進展を支配する重要な因子である。酸化LDLは細胞遊走促進、泡沫化、細胞障害など様々な細胞応答を引き起こす。これらの作用の一部はスカベンジャー受容体によって担われることが示されている。しかし、酸化LDLの示す作用メカニズムの多くは不明なままである。申請者らは、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)が酸化LDLの生理機能に関与するのではないかと考え、申請者らが独自に確立した新規GPCRシグナル検出系(TGFα切断アッセイ)を用いてスクリーニングを行い、約120種類のオーファンGPCRから酸化LDLにより活性化される6PCRを1種類(GPRXと表記)同定した。本年度はGPRXのリガンド探索およびGPRX発現細胞の機能解析を行った。酸化LDLを分画すると脂質抽出画分、その中でも特に酸性脂質画分にGPRXの反応成分が存在することがわかった。しかし酸化LDLの酸性脂質画分に含まれる活性成分の比活性が弱く、それ以上の精製が困難であったため、合成された脂質を酸化することで反応成分の同定を試みた。その結果、高度不飽和脂肪酸を含有するリン脂質を酸化した場合に、GPRXが強く反応することを見出した。この酸化脂質を逆相クロマトグラフィーで分画したところ、複数の画分でGPRXの活性化が検出できた。このGPRX活性化画分に含まれる化合物をマススペクトロメトリーで解析したところ、脂肪酸が酸化されてカルボン酸やアルデヒトになった酸化リン脂質が含まれることがわかった。また、GPRXを培養細胞に発現させ、酸化リン脂質を添加したところ、顕著な増殖抑制効果を見出した。生体中における上記酸化リン脂質の存在量や病態時の変動、GPRXを発現する細胞の機能等については今後の研究課題であるが、本研究により酸化リン脂質とGPRXが酸化ストレスを感知する新規の機構として着目すべきことがわかった。
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