研究課題
ザイール種とレストン種のエボラウイルスの糖蛋白質について、以下の研究を完成させた。(1)エボラ擬似ウイルスの感染性、エボラウイルス糖蛋白質のMGLへの結合性に関し、ザイール糖蛋白質ポリペプチド配列の33番目から50番目をレストン糖蛋白質のそれと交換することにより、糖蛋白質のレストン化に成功していたが、本年度にはレストン糖蛋白質ポリペプチド配列の33番目から50番目をザイールのそれと交換することにより、感染性とMGL結合性のザイール化に成功した。(2)これらのキメラ型糖蛋白質を含め、N結合型糖鎖の主要なものの全構造を決定した。その結果、ザイール、レストン及びキメラ型の糖蛋白質の全てにおいて、見出された約20種は構造的に同一であるが、量比が大きく異なることが判明した。ザイール糖蛋白質及びザイール化された糖蛋白質では、分岐のタイプ(2分岐、3分岐まあは4分岐)にかかわらず伸長度が低いものの相対比が高く、ガラクトース残基の付加率が低い点が顕著であった。一方レストン糖蛋白質及びレストン化された糖蛋白質では伸長度が高く、ガラクトースが付加されたものの比率が高いという構造的な特徴が明らかになった。(3)ウイルス糖蛋白質を産生し、擬似ウイルス粒子を産生している細胞において、ウイルス糖蛋白質の局在を明らかにした。その結果、その一部がゴルジ装置に分布しているが、細胞質に分散しているものもあることを細胞化学的に示した。以上から、エボラ糖蛋白質の33から50番目のアミノ酸配列によって、同一のホスト細胞で形成されるウイルス粒子表層糖蛋白質のN結合型糖鎖の伸長度が異なり、これがウイルス粒子とMGLとの結合性に影響し、エボラウイルスの感染性または致死性を決定することが示された。エボラをはじめとする出血性発熱ウイルスの病態形成機構を解明して治療法を開発できるだけでなく、糖蛋白質糖鎖の構造がそのアミノ酸配列によって調節を受けるという従来知られていなかった機構が提示され、基礎及び応用的な意義の大きい糖鎖生物学的成果である。
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