研究概要 |
本年度の研究では、ダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin, TCDD)の妊娠期曝露による母および児のプロラクチン(PRL発現低下の時期特異性を明らかにした。具体的には、妊娠15日目の母ラットにTCDDを投与後、妊娠18,19,20および21日目ならびに生後0,2,4,7,10,14,21および28日目の脳下垂体PRL mRNAの発現変動を解析した。その結果、母体においては妊娠期に変動は認められなかったものの、出産後7および14日目において有意に発現が低下した。PRLは、母乳分泌のみならず、育児行動発現にも必須であることから、育児母PRLの低下は児の発育を障害することが危惧される。事実、児の体重および数を解析したところ、胎児期には影響が認められなかったのに対し、出生後では体重および数ともに有意な減少が観察され、育児母体におけるPRL低下をよく支持した。TCDDの母体曝露は、児におけるPRL発現にも影響を与え、雌雄児ともにmRNAレベルでは軽微な影響に止まったものの、血中ホルモンレベルでは生後21日目において顕著な低下が確認された。児のPRL合成/分泌系の形成には、母から十分な育児行動を受ける必要があると考えられている。従って、雌雄児におけるPRL低下からも、母体PRLならびに育児行動低下が支持された。 このように、本年度の研究から母体PRLの低下と児の障害との関連性を示す重要な知見が得られた。次年度は、児の障害に対する母体PRL低下の重要性を明らかにするために、育児母体にPRLを補給し、障害を消去できるか否かを検証する。これらの研究を通して、ダイオキシンによる後世代毒性発現の一部は、母体PRL低下を介して生じるとの新規学説が提示できる予定である。
|