研究概要 |
高毒性ダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin;TCDD)が育児母の脳下垂体プロラクチン(PRL)低下を介して児の成長停滞を惹起する可能性について研究を行った。当初は、PRL低下に基づく育児能力低下が主な障害要因と考えており、PRL低下の意義や機構解析を予定していた。しかし、研究開始直前の検討から、胎児・新生児の成長ホルモン(GH)低下も無視できない寄与を果たす可能性が浮上した。そこで、予定を変更し、新生児の成長状況を詳細に解析して、PRLとGHの寄与を推定する研究から開始した。その結果、妊娠期にTCDD(1μg/kg、経口投与、妊娠15日目)を与えた母ラットでは、出産直後に児のかなりが脱落(死亡)するが、その時期を乗り越えた児は死亡することなく成長することが分かった。ただ、生存児には体重/体長低下ないしその傾向が残り、成熟期に至っても学習記憶能力の有意な低下が観察され、未成熟形質の少なくとも一部は消失しないことが判明した。これらの成績から、出生直後の死亡には胎児・新生児のGH低下が、また出生後の成長遅滞や未成熟の固着には育児母のPRL低下等の他の要因が寄与する可能性が推定された。このことは、PRLとGH低下時期の観察からも支持された。すなわち、児のGHは胎児終期から出生直後に一過性に低下するのみであるのに対して、母のPRLは出産後の正常な上昇が抑圧され、これが10日間ほど継続した。 育児母PRL低下の機構を明らかにするため、本ホルモンを制御するPRL放出ホルモンやドパミンの供給系がTCDDによって変動するか否かについて検討した。その結果、それらには特に変化は認められなかった。胎児/新生児のGH抑制については、GH放出ホルモン受容体の発現低下が寄与する可能性を明らかにした。 本研究により、TCDDによって惹起される児の死亡、成長遅滞および未成熟の固着には母子めPRLおよびGH低下が寄与することが推定された。抑制の機構、特にPRL低下の機構は今後の課題として残った。
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