最終年度である本年度は、申請者の開発した、培養細胞とルシフェラーゼアッセイを用いるアレルゲンの微量検出技術(IgE crosslinking-induced luciferase expression;EXiLE法)を、タンパク質のアトグラムレベルの検出技術として転用・改良し、実際に多数の患者が発生している原因抗原の微量検出を行なうことで、本システムの評価を行なうことを目的とした。すなわち、加水分解小麦(HWP)を含む石鹸の使用者が経皮・経粘膜的にHWPに感作され、小麦を経口摂取した際に食物アレルギーを発症するようになったという近年関心の高まっている事件の原因抗原について解析を行なった。 本原因抗原(グルパール19S;Glp19S)を、限外ろ過により10kDa以上、3 - 10kDa、3kDa未満に分画し、これを10%のウシ胎仔血清(FCS)を含有する培地に懸濁したものを抗原溶液とした。これを申請者の開発した感作済みのRS-ATL8細胞に添加すると、未分画のGlp19Sは1x10-14g/ml(10fg/ml)、10kDa以上の画分は1x10-15g/ml(1fg/ml)の濃度でルシフェラーゼの発現が陽性になった。これらはそれぞれ、タンパク質量として500ag/50μl/wellおよび50ag/50μl/wellに相当する。3kDa未満の画分には活性は存在しなかった。 通常、食品には、検出したい抗原タンパク質の他に、大量のマトリクス成分が含まれているため、検出技術にも頑健性の高さが要求される。本研究で用いた手法は、10%のFCSという大量の非特異的成分が共存する下で行なわれていることを考慮すれば、同目的における本法の頑健性は極めて高いといえる。溶液中に存在する非変性のタンパク質性抗原をアトグラムレベルで検出する技術として、本研究成果は重要な基礎的知見を提供できたと思われる。
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