薬物の副作用は、中毒性機序と特異体質性機序によるものに大別できる。中毒性の副作用に関しては基本的に動物モデルの構築と評価が可能であるが、特異体質性副作用に関するモデルは確立されていない。近年、幾つかの特異体質性副作用とHLA遺伝子多型の間に、密接な相関が見出されてきており、その関連性を説明可能なスキームとして、(1)薬物の反応性代謝物が細胞内タンパク質に付加し、(2)生成した異常タンパク質の分解物が、特定の遺伝子型のHLAでのみ抗原提示され、(3)免疫系の活性化が生じて副作用発症につながる、という一連の反応が仮説として提唱されている。(1)に関しては、共有結合性のタンパク質付加物を多く生成する薬物ほど、特異体質性副作用が発現する傾向にあると報告されており、また(3)に関しては、アバカビルに対する過敏症発症は、細胞障害性T細胞の活性化を介することが報告されている。しかしながら、(2)に関して解析に成功した例は存在しない。本申請研究では、特にこの点に焦点を絞り、「何故特定のHLA多型でだけ、免疫系の活性化が生じるのか?」という最も肝要な部分の分子メカニズム解明を目的として検討を行う。平成22年度は、アバカビルの反応性代謝物が付加したタンパク質あるいはペプチドを、選択的に回収する方法の確立を中心に行った。回収手法として水中での反応選択性が極めて高い反応手法として、クリック・ケミストリーを採用した。アバカビルは核酸アナログの塩基部分にシクロプロパンが付加した構造を取っているため、このシクロプロパン部分をアルキンへ変換した化合物を合成することで反応に用いることができ、かつ物性やその他の性質をアバカビルから大きく変動させないことが可能であると考えられた、このアバカビル誘導体の合成検討を行い、目的の化合物を得ることに成功した。また、この化合物が付加したタンパク質を特異的に回収するために、還元剤処理によって切断可能なS-S結合を介して、アジド基を表面に固相化した樹脂の作成を行った。複数のスペーサー候補を検討し、3種類のアジド基固相化樹脂を作成することに成功した。平成23度はこれらの樹脂およびアバカビル誘導体を用いて、アバカビルの反応性代謝物が付加したタンパク質の同定を試みる。
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