本研究では、抗がん剤耐性株と耐性獲得前の細胞の細胞内メタボローム(代謝物の総体)をCapillary electrophoresis time-of-flight masss pectrometry(CE-TOFMS)により一斉解析する。親株と耐性株の細胞内メタボロームプロファイルの比較により、メタボロームの視点から、これまで未知の抗がん剤耐性化メカニズムの解明・耐性化に関わる代謝経路および耐性因子を同定する。 ヒト肺癌細胞株MORとシスプラチン抵抗性MOR(MOR/CPR)について、抽出した細胞内代謝物をCE-TOFMSにより一斉分析し、親株と耐性株の細胞内メタボロームプロファイルの比較検討を進めた。検出されたピークについて、すでにキャピラリー電気泳動の移動時間およびm/zが明らかとなっている約500成分(アミノ酸代謝、核酸代謝、解糖系、TCA回路、ポリアミン代謝等に関わる代謝物)の分析データとの照合により同定を行った。同定できた代謝物についてMORとMOR/CPRの細胞内メタボロームプロファイルを比較解析した結果、耐性細胞でアミノ酸群の細胞内レベルが低下していることを見出した。特にタンパク質を構成する20のアミノ酸の中では、アスパラギン酸、グリシン、リシン、フェニルアラニン、セリン、スレオニン、トリプトファン、バリンの耐性細胞における細胞内レベルの低下が顕著であった。一方、両細胞でDNA合成の材料となるヌクレオチドの細胞内レベルに顕著な差は認められなかった。 抗がん剤耐性株と耐性獲得前の細胞の細胞内メタボロームを比較することにより、これまで論じられることの少なかった、抗がん剤(シスプラチン)耐性化に伴う細胞内代謝変化を明らかにすることができた。本研究で得られた知見は、これまで未知の抗がん剤耐性化メカニズム解明の一助となる。
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