脊椎動物の頭蓋骨は複数の骨が組み合わさって出来ており、その継ぎ目の組織は縫合線と呼ばれる。この継ぎ目の部分は未分化な間葉組織からなっており、出生時は直線状だが、成長に伴って湾曲してフラクタル用の構造を作る。このような、細い未分化の組織がその幅を保ったまま湾曲する仕組みはこれまで良く理解されていなかった。 我々はこれまで、この現象を反応拡散系を用いて定式化してきたが、生体内で観察される一部の構造に着いては再現をすることが出来なかった。 今回の研究では、「未分化な間葉細胞が骨分化を促進する因子を放出し、一定の範囲内で骨分化を促進する」という実験的に観察されている事実から、界面方程式と畳み込み積分を組み合わせた単純な数理モデルを導出し、縫合線の湾曲構造形成を数値的に再現することに成功した。さらに、このモデルの数理解析によって縫合腺の幅、生成される湾曲のうち最も成長の早い曲率、出芽構造の有無等を導出し、どのような条件の場合にどのような構造が生じるのか、一般的な予測が可能となった。 医学的には、縫合線の発達異常によって頭蓋骨早期癒合症という病態が生じる。この病態の一部は、FGFR2 が常に機能してしまうことによって起こることがわかっている。このような場合に、どのくらい異常が強かったら頭蓋骨の癒合が起こるのか、数理モデルと遺伝子異常の効果を比較して議論することが可能になった。また、そのような場合にどのような特徴的な縫合線の形態が生じるのか、信頼性のある予測が可能になり、医学面での応用が期待できる。
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