研究概要 |
20世紀初頭,ウニ卵を用いて,海水中のカルシウム(細胞外)が素早い細胞膜の修復に必要であるという現象が報告された.しかしながら,近年培養細胞などを用いてこの現象が再発見されるまで,この細胞膜修復現象は長い間忘れ去られていた.また,この細胞膜損傷修復は我々の体の中において生理的条件下で常におこっている現象であることも証明され,シナプスに見られる神経伝達物質放出機構と似た小胞輸送によって修復されることが考えられている.この膜修復は,上皮細胞,線維芽細胞,および筋細胞などについて多く報告されているが,神経細胞の膜修復については詳しい機構はわかっていない. 本研究は,生きたイカ(Loligo pealei, Todarodes pacificus)を用い,GaAsP搭載型二光子レーザー顕微鏡によって神経線維の膜修復をリアルタイムで観察した.膜修復マーカーとして,FM試薬,カルセインーAM,Rhodamin-dextranおよびカルシウムインジケータ(Fluo4-AM)色素を用いた.その結果,一般の細胞は細胞外カルシウムが膜損傷部から細胞内に侵入することにより,細胞膜修復装置のスイッチが入り,小胞融合による膜修復が行われるのに比べ,イカ巨大神経内では,細胞外カルシウムをスイッチとしない非常にゆっくりとした小胞融合が観察された.一方,細いイカ神経線維内では,小胞が素早く膜損傷部に融合する様子をLIVEイメージングで捉えることができた.
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