マウスの妊娠を保障するフェロモンの記憶は、副嗅球の僧帽細胞と顆粒細胞との間の相反性相互シナプスの可塑的変化によるが、単一細胞レベルで記憶細胞を同定し、かつそのシナプスの可塑的変化を捉えることは誰も成功していない。そこで、神経活動依存的に活性化されるc-fosプロモーターの制御下でドキシサイクリン(dox)発現調節システムを駆動することによって、時期特異的に活性化されたニューロンを持続的に標識することを可能にしたトランスジェニックマウスを用いてこの課題に挑戦することとした。神経活動に依存したGFPマーカーの発現は、doxのない餌と神経刺激をマウスに与えることによってトリガーされるはずである。実際、本研究でdoxのない餌と交尾刺激によって、副嗅球の一部の僧帽細胞と顆粒細胞がGFPの蛍光を発し、標識されることをスライス標本において確認した。今後は、これらの標識された僧帽細胞と顆粒細胞からホールセル記録を行い、それらの細胞の電気生理学的特性及び両者間のシナプス伝達(樹状突起間シナプスを介した僧帽細胞抑制dendrodendritic inhibition、シナプス電流の長期増強など)を標識されていない僧帽細胞と顆粒細胞と比較し、交尾とフェロモン曝露によってこれらの神経細胞が神経回路の中でどのように動作(可塑的に変化)して特定の化学シグナルを認識・記憶し、引いては妊娠の保障という特有な機能を発現するのかを明らかにして行く。
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