(1)第二世代EMARS標識試薬の開発と質量分析による標識タンパク質同定法の確立 EMARS反応の第二世代標識試薬としてアリールアジド-フルオレセインを開発した(特願2010-157181)。アリールアジド-フルオレセインを使用すると、従来の問題点であった内在性酵素による活性化(ノイズ)が劇的に抑制された。アリールアジド-フルオレセインを用いてガングリオシドGM1と会合する分子を調べた。EMARS反応産物を抗フルオレセイン抗体で分離濃縮した後、トリプシンで消化して質量分析装置で約30種類の膜タンパク質を同定した(Proteomics 2012)。 (2)外的刺激や膜環境の変化に伴う細胞膜分子間相互作用の変容と生物情報発信への影響 抗体医薬品の効能に関与すると予想される細胞膜上シグナル分子の探索を目的として、B細胞リンパ腫治療抗体である抗CD20抗体、rituximabをモデル抗体として用い、rituximab-CD20複合体と相互作用する分子を探索した。その結果、複数の受容体チロシンキナーゼ(RTK)が相互作用することが分かった。その中で、rituximabの作用機序の一つであるB細胞リンパ腫アポトーシス誘導シグナルに関与する分子候補としてFGFR3が同定された。FGFR3の機能的関与を調べるためPD173074でFGFR3を阻害すると、rituximab依存性B細胞リンパ腫アポトーシスが減弱された。この結果は、FGFR3が抗体医薬rituximabのアポトーシス誘導に関与する分子であり、ひいてはrituximabの効能を制御する分子標的となりうることが示唆された(第84回日本生化学会大会、2011年9月、論文投稿中)。
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