ES/iPS細胞などの多能性幹細胞を用いて、様々な細胞(神経幹細胞NSCなど)への分化方法開発が進んでいるが、そのどれもが長い時間(数週間)を要し、これが実験上のばらつきを生み、分化条件の至適化が進まない原因になっている。最近の知見から、細胞の分化は転写因子の組み合わせによって決定されるとわかってきている。ES細胞では、分化に重要な遺伝子は発現を抑制されていると同時に、すぐにでも発現できるエピジェネティクス状態にある(ヒストン修飾の抑制型と活性化型が混在するbivalentなクロマチン状態)。つまり、適切な転写因子を与えれば、目的の細胞を規定する下流遺伝子群は発現すると考えられる。本研究では、ES細胞において同時に多数の転写因子を強制発現し、短期間に目的細胞を得ることを試みた。ひとたび「分化時間は短縮できる」ことがわかれば、その後は他の研究者の流入も手伝って様々な他の細胞へも応用され、分化条件が至適化されるだろう。多因子発現系は翻訳量の至適化が必要なことがわかったため、様々な翻訳効率を上昇させる配列をコード領域5'側に挿入したところ、IRESが一番翻訳効率が高いことがわかった。別の発現系を用いて、ES細胞へNSCの重要転写因子群を導入したところ、通常より短い日数でNSC様の細胞が得られた。また、もう一つの解析例として、肝幹細胞(HPC)の重要転写因子群をES細胞に導入したところ、やはり通常より短い日数でHPC様の細胞が得られた。これらの結果は、分化時間が短縮可能なことを示唆する。
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