癌などの疾患における糖鎖の役割が明らかになるにつれ、糖代謝から糖鎖生成までの各行程を統合的に捉える必要性が高まっている。単糖の代謝活性型である糖ヌクレオチドは糖転移酵素の基質として、その細胞内レベルや局在変化が糖鎖修飾を調節している。本研究は糖ヌクレオチド変化による糖鎖の新たな生理作用を見出すため、糖ヌクレオチドの新規解析法を確立し、糖代謝異常における意義を明らかにすることを目的とする。 本年度はHPLCによる糖ヌクレオチドの一斉定章法と、LC-MSによるグルコース代謝追跡法を確立した。HPLC法は細胞を70%冷エタノールで処理後、続いて固相抽出で精製した試料を、特定のODSカラムを用い最適条件により分離・定量する。本法では細胞内の主要な糖ヌクレオチドを一斉定量できることから、糖鎖修飾の全貌を知る手がかりを得ることができる。次に本法はLC-MS法として改良し、安定位体標識単糖を用いた代謝標識法と組み合わせ、グルコースから糖ヌクレオチドへの生合成経路の追跡法として応用した。例えば^<13>C_6-グルコースで標識した場合、UDP-GlcNAcのMSスペクトルは、糖ヌクレオチドの糖鎖部分、ヌクレオチド部分、更にN-アセチル基が標識された同位体パターンを示し、その同位体イオン比率はグルコースからヘキソサミン経路、核酸合成経路および解糖系への代謝め流れを示すことがわかった。更に悪性度が高い膵臓癌細胞株を用いて、糖ヌクレオチドの低グルコース・低酸素応答の解析に応用したところ、膵臓癌細胞株のみ特異的にUDP-GlcNAcの減少、UDP-GalやUDP-Glcの約10倍減少が認められた。今後はこれらの糖ヌクレオチド変化による糖鎖の構造的変化を探索し、癌微小環境域における癌悪性化において糖鎖が果たす意義を探る予定である。
|