研究概要 |
動物の器官再生能の程度は動物種や発生段階、器官により異なる。アフリカツメガエルは幼生期に高い尾再生能をもつが、発生過程で再生能が一過的に失われる時期(再生不応期)がある。我々はこれまでに、再生不応期と可能期では尾切断端で異なる免疫反応が起きており、不応期個体を免疫抑制剤(FK506等)処理すると再生能が回復することを見いだした(Fukazawa et al., Development 2009)。また不応期では未熟な自己反応性の免疫細胞が再生芽細胞を攻撃.破壊するため再生できないが、不応期後可能期には制御性T細胞が分化し、免疫細胞の働きを抑制するため再生できることを示唆した。しかしどのような免疫細胞が再生芽細胞を「非自己」として攻撃するか、また再生芽細胞が免疫細胞から攻撃される際に標的となる非自己マーカーは何かといった点は不明であった。 今回我々はこの点を解析するため、不応期個体とそれをFK506処理して再生能が賦活化された尾切断端で発現が異なる遺伝子を網羅的に探索し、次の3つの遺伝子を得た。クローン#1はフィタン酸代謝酵素の類似タンパク質をコードする新規遺伝子で、不応期の尾切断後一過的に尾切断端に浸潤し、再生に阻害的に働く免疫細胞で発現すると考えられた。発生過程では不応期選択的に発現することから、不応期に体内に漏出した自己反応性免疫細胞で発現すると予想された。また発生過程で生存に必須な役割を演じることも分かった。クローン#2は不応期の尾切断後、尾切断端で一過的に発現上昇する免疫系のエフェクター遺伝子と推定された。クローン#3は新規C-タイプレクチン遺伝子で、尾切断後再生の有無に関わらず発現上昇し、胚発生期には発現しない一方で不応期では全身で発現誘導されることから、既に形成された組織のりモデリングに働くと考えられた。これら知見は、再生に阻害的に働く免疫関連因子の実態を解析した世界でも最初の知見で、高い独創性と学術的意義をもつと考えている。
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