糖尿病患者にがんの発症頻度が高いという疫学的な研究成果が最近いくつか報告されている。しかし、その実体については不明の点が多い。本課題では、シアル酸を脱離することにより、シアル酸量調節の重要な一端を担うシアリダーゼに着目して、糖尿病とがんの関連性について検討している。われわれが世界に先駆けて同定・解析してきた形質膜局在型シアリダーゼ(NEU3)がヒト各種がんで発現が異常亢進していること、このトランスジェニックマウスががんおよび糖尿病発症に関わっていることを先に見出した。NEU3遺伝子過剰発現によるシグナル制御異常に基づいている可能性が強い。とくに、昨年度はNEU3を介したアポトーシスとインスリンシグナリングのクロストークについて検討した。 がん細胞では、NEU3ノックダウンによって、浸潤や運動能の低下やアポトーシスの促進など、がんの悪性形質の低下が起こる。これらの現象におけるNEU3の標的分子のひとつはEGFRであることがわかってきた。NEU3がEGFRのリン酸化を修飾してAkt/ERK経路を制御していることが検証された。一方、NEU3ノックダウンはタンパクホスファターゼPP2Aの発現を上昇させ、Aktリン酸化を低下させて、インスリンシグナリングを負に制御している可能性を示す証拠も挙ってきた。NEU3がEGFRやPP2A発現を変化させる機構やこれらの分子変化の詳細を調査するとともに、NEU3発現を修飾する因子についても検索を進めたい。
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